15Dec
トピックス② 子どもの不登校と母親の月経 佐藤秋子
現代の不登校事例には、怠学領域、非行領域、神経症や精神的疾患などの各領域を明確に分けられない境界部分で拡大しているという特徴があります。また、特定の子どもの問題ではなく、不登校を示す子どもとそうでない子どもとの境界も不明確になってきています。 ここでは、子どもの不登校と、母親の月経随伴症状との関わりが認められた事例をお話ししたいと思います。
母親の月経周期に合わせて遅刻や欠席を繰り返して不登校となった男児の事例
小学校1年生の男児C君の家族構成は、3歳年上の姉と両親の4人家族です。C君は小学校入学当初は喜んで登校していましたが、時々学校を休むようになり、やがて、夏休み明けの2学期から遅刻や欠席が多くなり、3学期には不登校になっていました。C君は、学校では仲間との遊びや学習能力に問題はありませんでした。ただ、顔を洗わないとか身体が清潔でないと思われることはたびたびみられました。C君が登校しない日に、担任が家庭に電話をすると母親は「月経の時期なので何もする気が起きない」と辛そうに話します。母親は教育熱心な反面、月経の時期になると、子どもの食事や入浴の世話など、すべてがおろそかになるという状況にありました。したがって、子こどもたち(C君と姉)は母親の月経周期に合わせて、遅刻と欠席を繰り返すことになり、C君は不登校になりました。父親はC君の姉が入学した頃は、熱心に子どもの送り迎えや学校からの電話にも応じていました。しかしC君の入学の頃には、両親の関係は不仲となっていて、父親は家庭をあまり顧みず、留守にするようになっていたのです。学校では、養護教諭などが、交代で迎えに行くなどの対策を講じたり、母親に病院での診察を勧めたりしましたが、母親は「月経だから仕方がない」といって、積極的に解決しようとする姿勢が見られませんでした。
このように家庭のなかで母親が月経随伴症状といった自分の問題で精いっぱいになり、子どのも世話が全くできなくなってしまうという、親自身の問題から生ずる不登校もあることは、月経問題が軽視出来ない問題であることを示しています。C君の不登校の原因は、母親の月経随伴症状が強いために、毎月の一定時期に、育児放棄の状態となっていることにより、基本的生活習慣が確立されていないため、結果として、不登校になっていると考えられます。
母親の月経随伴症状と子育て
C君の母親は「月経だから辛いのは仕方がない」と諦めていますが、このように考えている女性は少なくありません。子育て年齢と考えられる30代から40代の女性の80%以上が月経時に下腹痛があると答えていますが1)、それに対してどのような対処しているかを見ると、多かったのが、表1のとおり「横になって休む」と「我慢をする」でした1)。この結果からみても、子育て中の女性であれば、C君のお母さんと同様に、月経の度に、養育放棄の状態となってしまう可能性が推察されます。また、成熟期の女性が悩まされる症状としてPMSがあります。主症状としては、イライラする、怒りっぽい、攻撃的になるなどですが、PMSによる強いイライラや激しい攻撃性は、場合によっては子どもへの虐待になりかねません。月経随伴症状は、女性だけの問題と考えられがちですが、子どもや夫など身近な人間に多大な影響を与えます。アメリカでは男性のためのPMSプログラムがあり、夫は援助者として果たす役割を学びます。お母さんの月経問題は、子育て、夫婦関係など家族全体の問題なのです。子どもは、社会に適応するために、親や身近な大人からしつけをうけたり、子ども自身による、親や教師をモデルとした観察学習によって様々な事柄を学んでいきます。その意味でも、お母さんは、月経問題を解決して、生き生きと健康的なモデルとしての姿を示しながら、養育の責任を果したいものです。
表1 月経痛への対応(複数選択回答) (%)
内 容 | 30~34歳 | 35~39歳 | 40~44歳 | 45~49歳 |
横になって休む
我慢をする |
47.7
33.7 |
45.7
30.2 |
40.8
26.7 |
36.0
25.1 |
文 献 1) MSG研究会(代表松本清一):月経に関する意識と行動の調査、自治医科大学看護短期大学、1990、p78 & p90-91.
引用文献 佐藤秋子 2004 Topics.2 子どもの不登校と母親の月経 松本清一(監修)『月経らくらく講座-もっと上手に付き合い、素敵に生きるために-』、文光堂(http://www.bunkodo.co.jp/)、p40、より