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月経研究会

悩んでいるのはPMS(月経前症候群)ですかそれともPEMS(周経期症候群)ですか 川瀬良美

1.悩んでいるのはPMS(月経前症候群)ですかそれともPEMS(周経期症候群)ですか

淑徳大学 川瀬良美

1.女性と月経

月経は、女性の身体生理的な特性として思春期に二次性徴の一つとして発現します。周期的な月経は、生活にリズミカルな変化をもたらしますが、それが心身の変化であることもあり、場合によってはその変化が苦痛や不安の原因となることもあります。月経にともなう症状は月経随伴症状と呼ばれており、日常生活を著しく障害する病的な症状は月経困難症と呼ばれ医療的援助の対象となります。月経時に日常生活の中で自覚できる程度の変化を体験している女性は少なくありませんが、医学的治療を必要とするほど重篤な症状の発症頻度は多くはありません。 近年は、月経時のみではなく月経前に起こる症状にも注目が集まっています。月経前に起こる症状は、「月経前症候群」と呼ばれており、英語の「premenstrual syndrome」の訳語で、その略称である「PMS」の方がよく知られてきました。 ここで話題とするもう一つのPEMS(周経期症候群)は川瀬・松本が初めて提唱した概念です。PEMSを提唱するに至った研究によって、月経の悩みがPMSであるかPEMSであるか弁別することで、より適切に月経随伴症状を理解し対処することが可能となります。

2.PMS(月経前症候群)とは何ですか

月経前の症状が注目されたのは、1931年にFrankが月経前7日~10日頃に浮腫、てんかん、喘息や精神症状が周期的におこり月経開始と共に消失する症状を示す患者について、月経前緊張症として報告したのが最初とされています。その後、同様の症状について様々な名称が用いられましたが現在ではGreenらの提唱にしたがってそれらを総括した月経前症候群:(以下、PMS)の名称が用いられています。PMSとは何であるかをその定義から見てみますと、日本産科婦人科学会では「月経開始の3~10日前から始まる精神的、身体的症状で月経開始とともに減退ないし消失するもの」との統一見解を示しています。PMSとしてリストアップされた症状の総数は150にも及ぶともいわれており、その多様さには驚かされます。アメリカにおいては身体症状と精神症状に加えて、社会的症状をリストアップして社会生活への影響を重要視しています。PMSが米国女性の健康は勿論、家庭生活のみならず職場など社会生活にも影響が大きいとされていることは、女性の有職率の高くなっている日本でもPMSは無視できないでしょう。PMSは思春期から更年期前の排卵性月経のある女性なら誰でも発症する可能性があります。その発症のピークは30代と言われており、「三十代中期症候群」という30代の女性には有難くない呼ばれ方をしたこともありました。 PMSの発症率は、米国においては月経のある女性の20%から40%に日常生活に影響を与える月経前症状がありますが、PMSとして医学的治療を必要とするケースは症状を訴えている内の2~5%程度と報告されています。

3 PEMS(周経期症候群)とは何ですか

PEMSとは「perimenstrual syndrome」の略称で、日本語では「周経期症候群」と言います。周経期症候群(以下、PEMS)とは、「月経前期から月経期にかけて起こり、月経中に最も強くなる精神的、社会的症状で、月経痛症に起因する症状である」と定義されます。月経時に下腹痛のある人では、月経前に生ずるPMS様の症状の中に、月経開始とともに減退・消失せずに月経時まで持続して月経時にピークを迎えるという推移を示す症状があります。大学生を対象とした研究から、これらの症状は下腹痛が原因で発症していることが確認され、従来のPMSでは説明できない症候群であることからPEMSを提唱しました。PEMSの症状は、イライラ、無気力、不安が高まる、憂うつという精神症状と、一人でいたい、月経が嫌になるという社会的症状などが該当します。症状だけをみるとPMSと同一であるため、月経前期の症状だけに着目したのでは弁別がつきません。月経前期から月経期への症状の推移の様相と、月経痛症の有無で弁別が可能です。特に大学生など下腹痛が多い年代の月経前症状の診断と治療にはPEMSではないかを確認することが有効です。

4.月経随伴症状の実態

日本では月経周期に随伴しておこる症状の研究は、1950年以前は主として月経時に発来する月経障害についての報告でしたが、1950年後半から月経前を含めた随伴症状についての報告が始まっています。 松本清一によりますと、収集したデータや臨床事例について検討した結果、月経前に症状がある者は60%~87%と多数認められましたが、月経前だけに症状があるという比率はその2分の1~3分の1程度でした。症状の発症の時期について年齢との関連で検討しますと、10代~20代の若年者では月経前も月経時も症状のある者や月経時のみに症状のある者が多く、30歳以上の高年者では月経前のみに症状が現われる者が多いという年齢による明らかな相違がありました。さらに月経前と月経時の症状の内容とその推移を検討してみますと、10歳代から40歳代までの全てに月経前の精神症状として「イライラ」「怒りっぽい」「憂うつ」などが、そして身体症状としての乳房症状が存在しました。しかしその推移を検討しますと、20歳代後半~40歳代前半は月経前を中心としており、月経期には軽減するか消失するという様態を示していました。しかし10歳代では月経前に発現しても月経中まで持続するか月経中により多く発現しているという様相で、月経前の症状でもPMSとは異なる症状の推移でした。このような若年女性の特徴は女子大生)や、短期大学生を対象にした研究でもみられました。このように、年代による発症のパタンに相違があることから、10歳代と20歳代以降では同様の月経前症状であっても成因を異にすることが示唆されました。中でも、10歳代の気分の変化の頻度は月経前と月経中の「下腹痛」の推移とほぼ一致していて、月経前の精神症状の発症が下腹痛と関連していることが考えられました。

月経前症状と月経時症状を包含した随伴症状についての概念の相互関連は以下の図から理解できます。

引用文献 川瀬良美 2004 2 悩んでいるのはPMS(月経前症候群)ですかそれともPEMS(周経期症候群)ですか 松本清一(監修)『月経らくらく講座-もっと上手に付き合い、素敵に生きるために-』 文光堂(http://www.bunkodo.co.jp/)Pp18-27、より抜粋.

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